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粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」

第五回「出トチリ」

11月に入り、ずいぶんと秋めいてまいりました。いいよね、「秋めいた」って言葉。これが「アニメイト」だとちょっと微妙な気分になっちゃうし、「梶芽衣子」だとただの人名だし。まあとにかく秋めいたってことですよ。朝晩は結構寒いですね。

さて、そんな秋。芸術の秋でもありますから、皆さんにおかれましては舞台鑑賞などなさってみてはいかがでしょうか。私もこの秋はオフですのでいろんな舞台を見に行っております。
歌舞伎劇場などの場合、席列が前から「いろは順」に割り当てられている場合がありまして、前から7〜9列目を「とちり席」と言います。「いろはにほへ『とちり』ぬるを」ってことですね。この辺りだと舞台に近すぎず遠すぎず、とても見やすい席として昔から重宝されてきました。なので観客側としては「とちり」は良い意味なのですが、出演者にとっては「とちり」は大敵なんです。

とちり。そう、舞台用語で「トチリ」とは失敗を意味します。一般にも失敗することを「とちる」と言いますが、元々は舞台用語のようです。「栃麺(栃の実を練った麺)」を作る際には「栃麺棒」という延ばし棒を使うのですが、栃麺を作るにはかなりせわしなく迅速に作らなければならず、その慌てた様を「とちめん坊」と言う様になり、舞台上で焦ってうろたえることを「とちる」と洒落めかす様になったようです。
辞書に「とちる」という動詞は載っていますが、「とちり」という名詞が載っていないのは意外でした。「早とちり」は載ってるけどね。

いかに普通の言葉とは言え、みなさんはあまり日常生活で「とちった」とか言わないかと思いますが、我々演劇人は普通に使います。歌舞伎界ではセリフを大幅にとちったりした時には「とちりそば」といって出演者全員におそばを振る舞うという話もあるそうです。お客様にとって「とちり席」は良くても、役者にとって「トチリ」は全然良くないというわけです。

桂さこば師匠が若い頃、寝坊をして数日続けて高座に上がらず、「もうトチったらアカン」と夜通し起きていたら、朝になって寝てしまい、その日もまたトチってしまって師匠に大目玉を食らった話を聞いたことがあります。寝坊して欠席することを「高座をトチる」というのが豪快で印象深かったですね。


我々演劇人にとって「トチリ」は大敵ではありますが、多少の言い間違いならば取り繕うことも出来ます。しかし、最も大変なトチリは「出トチリ」でしょう。出トチリ。舞台に出なければいけないタイミングで出ないことですね。居なければいけないのに、居ない。そんなことがあるわけが無いとお思いでしょう。でも、これがままあるもんなんですよ! ままあったらいけないとは思うのですが、あっちゃうんだから仕方がない。
出トチリにも色んな状況があります。大人数の出番だったり、出てすぐにセリフがなかったりすれば、結構な時間出トチっても問題ない場合もありますが、出てすぐにセリフがあったり、出ることによって展開がある場合には、ほんの数秒の出トチリが命取りになることもあります。
入ってくるべき人が入ってこないんですから、当然そのとばっちりは既に舞台上に居る人に降りかかってくるのです。物語が展開しないんだから。しばらく妙な無言の間があり、その後おもむろにさっき言ったことを繰り返し始めたら、それは誰かが出トチっているのですよ! ああ、怖い!

出トチった時の恐怖といったら、そりゃあもうトチった方もトチられた方も大変なもんですよ。まるで血が逆流するような恐怖です。取り返しがつかないですからね。もちろんそんな失態を犯さないように出演者もスタッフも気をつけてはいるのですが、たまーにやっちゃうんですよね。やっちゃう人が居るんですよね。

そんな時にはどう対処するか。舞台上に居る人はなんとか会話を続けようと努力するしかないのですが、トチった本人はどうするか。これがまた人それぞれです。何食わぬ顔で入っていく人、楽屋の廊下から大声でセリフを言いながら飛び込んでいく人、なんか知らないけどやたら早口の人。ちょっとにわかには信じられないかもしれませんが、いずれも私が実際に見たことのある人々です。

私が直接見たなかで一番ひどい出トチリは、ウチの中谷さとみがやっちゃった「出トチリじゃなくて出ない」ですね。「IZO」という作品の一幕終盤、通りすがりながらひとこと言うだけの出番なのですが、いつまで経っても出てこない。慌てたスタッフが楽屋に向かって「さとみ〜!」と呼んだら既に衣裳を脱いださとみが「はい〜?」と返事をしていました。もう出番が終わったと思って脱いじゃってたんですよ。
結局そのシーンは妙な無言の間があった後、何事もなかったように続いていったのですが、これはひどい。「出トチリ」じゃなくて「出ない」んですから。これほどひどい出トチリは後にも先にも見たことがありません。当然のコトながらさとみさんはこっぴどく叱られ、盛大な罰ゲームをやらされるはめになったのでした。

かくいう私も一度だけ出トチリをしたことがあります。MOTHERという劇団に客演していた時、新感線座長のいのうえひでのりが見に来ていて、楽屋に帰って「いや〜、ウチの座長が気になって芝居に集中できませんわ〜」とか言っているウチに出番が来ていたんですよ。
慌てて上着を着ながら廊下を走ったんですが、舞台上では牧野エミさんと宮吉康夫くんが上手く会話を繋いでいて下さったので、キチンと衣裳を直してから悠々と登場し、開口一番「すみません、出トチリました!」と素直に白状しました。人間、素直が一番ですね。ああ、すみません、以後気をつけます。ホント気をつけます。

粟根まこと

粟根 宣材

あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。演劇ぶっくコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。
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次回予定◇こまつ座&ホリプロ公演・紀伊國屋書店提携『十一ぴきのネコ』2012年1/10~31◎紀伊國屋サザンシアター

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